トイレ待ち難民を、エンジニアがテクニカルに救ってみた話

こんにちは、先端技術推進室の林です。

男性比率の多いエンジニアの皆さん。男子トイレ、いつでも空いてますか?
私の職場はここ最近大型プロジェクトが続いた関係で、同じフロアに人がどっと集中してしまい、その影響でトイレの個室がいつも空いていないという問題が発生しています。
特に昼食後は、それが顕著に。

  • ①トイレに行ったら全て埋まっていて、仕方なく席に戻る
  • ②そろそろ空いたか?と思っていってみたら、まだ埋まってる(なんなら行列が伸びてる)
  • ③上の階のトイレまで足を伸ばしてみるも、そこも埋まっている(軽い絶望)
  • ④もう1つ上のフロアのトイレまで行って、やっと空いているトイレを発見!

こんなことが何回かあって、些細なことではあるものの、ちょっとしたストレスでした。

とくに忙しい時に限ってこういうことがあると、用を足した後もスッキリするどころか悶々としちゃって(うまいこと言いました)、隣の席の同僚に軽く愚痴ってみたら、なんと彼も同じことを感じてたことが判明。
そこで更に隣の席の部下にも聞いてみたら、やはり彼も同じストレスを感じていると言うではないですか。
これはもう、足して足して足し算していくと、積もり積もってとんでもない生産性低下なのでは?と思い立ったのがキッカケ。

というわけで、作ってみました。SCCのトイレIoT化サービス

解決へのアプローチ

手っ取り早くトイレを増設できれば一番ですが、予算と私の権力不足、そしてエンジニアとしての使命感も相まって、システム的な解決へのアプローチを考えました。

何より辛いのが、せっかく足を運んだのにトイレが空いてなかった時の絶望感だと思うんですよ。
空いてないって事前に分かっていれば、最初から他のフロアのトイレに行ったのに…っていうイライラは、無駄なことを嫌うエンジニア達にとって無視できないストレスです。
そこで、トイレに行かずとも事前に空き状況をチェックできればいいのでは?!と思い、トイレの各個室のドアに開閉センサを仕込んで、リモートで空き状況をチェックできるようにしようと考えました。

平面図:トイレ+IOTセンサ配置図

使用した機器構成

ドアの開閉を検知するセンサは、以下の製品を採用。

【ドア開閉センサ】EnOcean STM250J
画像:EnOcean STM250J

磁気近接式(リードスイッチ)の無線式ドア開閉センサー

 

  • 電源:内蔵ソーラーセル、50-100,000 lux
  • 暗闇での動作時間:typ. 6日、min. 90時間
    (内蔵キャパシタが満充電で25分間隔で発信時)
  • キャパシタが放電している状態から動作開始まで:typ. 2.5分@400 lux/25°C
    (白熱電球か蛍光灯下にて)
  • サイズ:110 x 19 x 15 ㎜

これが各フロアの男子トイレの個室分だけ必要で、1フロアにつき個室が3つ×全4フロア分で、計12個購入。
皆さん値段が気になるでしょうが、最後にまとめて発表しますので、しばしお待ちを。
取り付けたイメージが、こんな感じになります。

画像:センサ機器取付

それから、開閉状況=空き状況を知らせる「表示板」も用意しました。
実は当初、各社員のPCから空き状況が見られる仕組みを考えていましたが、一部の社員から「監視されてるようでイヤだ」という声もあり、今回はこういった形での実装となりました。
まぁテストですから、色々試してみないとね。

【利用状況表示板】Raspberry Pi+7インチディスプレイ
画像:Raspberry Pi+7インチディスプレイ

ドア開閉センサから飛ばされるドア開閉状況データの「受信機」と利用状況を表示する「ディスプレイ」を兼ねた機器

 

  • Raspberry Pi 3 Model B
  • Raspberry Pi用 7インチ タッチスクリーン付き液晶ディスプレイ
  • EnOcean USBゲートウェイ USB400J

これも、全4フロアに1つずつ置くため4つ購入。
トイレ前のアプローチに設置し、トイレまで近寄らずとも、各フロアへ続く階段前からよく見えるような配置にしました。

開閉センサと表示板の間の通信は、EnOcean規格に基づいた928MHz帯の通信で実現し、フロア間の通信は、表示板を無線LANネットワークに接続して相互に同期することで実現しています。
(社内ネットワークに同期用サーバを構築しました)

画像:ディスプレイとボタン

清掃業者さんとの連携プレー

さて、この表示板、もっと近くに寄って見てみると、こういう表示になっています。

画像:モニタ表示イメージ

左半分の大きなスペース部分が、現在いるフロアのトイレの利用状況を示しています。
そして右側に、他フロア(全4フロアあるので、残り3フロア分)の利用状況を表示しています。

読者の皆さんも、もうお気づきのこととは思いますが、この表示板がお知らせするのは、なんと空き状況だけではありません。
「清掃中」のステータスも表示できるようになっています。

ではどうやって、いま清掃中であることを認識させているのか。もちろん開閉センサでは清掃中であることは認識できません。

画像:スイッチボタン
スイッチ土台も3Dプリンタによるオリジナル

その答えが、さきほど出てきた起爆スイッチにあります。

答えは、「清掃業者さんが清掃を始める際に、このボタンを押してもらう」というのが正解です。
トイレの清掃業者の方に、清掃を始める前にこのボタンを押してもらうことで、当該フロアが「清掃中」というアイコンに切り替わります。
同じように、清掃終了後に再度このボタンを押してもらうことで、開閉センサに応じた空き状況ステータスに切り替わるという仕組みです。

つまりは、清掃業務の中に空き状況管理の運用フローを組み込んだ訳です。
テクニカルに解決すると言いながら、一部人的リソースを投入していますね。
ですがこれで、最小限の手間で、使用不可な状況を限りなく100%検知できる仕組みが確立できました。
このボタンがまた、たまらなく押したくなるような形状で、清掃業者の方からも好評です。
(実はそれも狙っています。クイズの早押しボタンをイメージして、土台を3Dプリンタで自作する徹底ぶりです。)

やってみての反省

では結果発表です。
今回のサービス構築にかかった機器購入費用は、以下の通り。

機器購入費用一覧
  項目 製品名 単価 個数 小計
1 ドア開閉センサ
(トイレ個室ごと)
EnOcean 無線式ドア開閉センサー STM 250J ¥8,100 12 ¥97,200
2 利用状況表示板
(フロアごと)
EnOcean USBゲートウェイ USB400J ¥3,780 4 ¥15,120
3 SONY microSDHCメモリーカード UHS-I 16GB Class10 ¥2,181 4 ¥8,724
4 Raspberry Pi 3 Model B (RSコンポーネンツ製) ¥5,670 4 ¥22,680
5 Raspberry Pi用 7インチ タッチスクリーン付き液晶ディスプレイ(RSコンポーネンツ製)
¥11,340 4 ¥45,360
6 Raspberry Pi & 7インチ タッチスクリーン液晶用ケース (RSコンポーネンツ製) ¥3,934 4 ¥15,736
7 ラズパイ3に最適なACアダプター 5V/3.0A USB Micro-Bコネクタ出力
¥1,404 4 ¥5,616
合計 ¥210,436

<紹介した機器について>
本コラムで紹介した機器の販売は、弊社では行っておりません。機器の購入につきましては、各メーカーにお問い合わせください。

思った以上に高額になってしまいました(苦笑)。
研究費として快く出してくれた会社に感謝しつつも、このままじゃ全くペイできない感じ。製品化には程遠いです。
今回は社内利用を主目的としているとは言え、もし製品化するならば、少なくとも以下の課題はクリアするべきかな。

  • ①製品ベースに乗せるための価格帯の見直し
    細かく市場分析した訳ではないですが、1ビル4フロア12個室のトイレの空き状況を知るのに21万もかけてるようでは話にならないでしょう。もっと安価に開発するためには、現在のEnOceanに加えて、Oshieru、leafee magなどの安価なものにも対応したいですね。
  • ②スマホや社内Webからも利用状況を確認したい
    今回はあえて考慮しませんでしたが、やはり①の問題との絡みもあり、高額な「表示板」ではなくスマホアプリや社内Webから気軽に見れる仕組みの方が、利便性も向上するし、もっと安価に開発できそう。サーバもクラウド化しないと。ただ「表示板」の汎用性や使い勝手も捨てがたいので、これは別途オプションとして残したい所です。
  • ③機器の設置難度が高い(SCCのサポートが必要になってしまう)
    電波強度や指向性などの問題で、センサと受信機(表示板)の設置難度が高く、顧客だけで取り付けるのが現状厳しい。サポート業務が発生するとなると、オンサイトの人件費で足が出ると思われる。

まぁなにはともあれ、少なくともこれで私の両隣のトイレ難民は救えたんじゃないかと思う訳で。
そう考えると、身近な人を幸せにするソリューションを作れて、エンジニア冥利に尽きるプロジェクトではありました。

ちょっとした思いつきから生まれたサービスではありますが、こうした取り組みから社内でIoTに対する関心が高まり、次なるチャレンジの後押しになれることを願っています。
みんなで良いモノを作っていきましょう!